№74-H29.8月号 中小企業にも「健康経営」
実現への意識とハードル
中小企業にも「健康経営」に対する意識が広がってきています。従業員の健康管理に関しては、どうしても福利厚生の手厚い大企業が先行しているイメージがあり、実際に生活習慣予防のための特定健診だけでなく、ストレスチェックや産業医への相談など医療サポートも充実している企業が大多数です。
一方、中小零細企業では、どちらかと言えば、健康は自己管理に委ねられており、従業員の意識の問題というような傾向が長年続いてきました。法定の特定健診の実施率を比べてみても、大企業が7割超なのに対し43%と大幅に下回っています。
しかし、昨今の人材不足が深刻となった影響から、中小企業においても「従業員が健康で長く働ける仕組みづくり」が重要視され、経営者を含めた「健康経営」という考え方が徐々に普及してきました。政府主導の「働き方改革」は、残業時間の上限規制を含めた長時間労働の是正など、触れる機会も多いかと思いますが、安定した労働力の確保という意味ではむしろ個々のメンテナンスという側面の方がより重要になってきます。
とは言え、労働時間の減少に加え、「健康経営」のためのコスト増では、なかなか実現に踏み出せないという経営者様も現段階では少なくないことでしょう。
「健康経営」を促進するための制度
政府も成長戦略の一環として、経産省が今年、「日本健康会議」(経団連などが主催)と共同で、経営者が率先して健康増進に取り組む中小企業を「健康経営優良法人」として認定する制度を設けました。
また、日本政策投資銀行は、健康に関わる社内制度の整備を条件に低利融資する「健康経営格付」を実施し、中小企業の取得も増加しています。
「健康経営優良法人(中小企業向け)」の主な認定基準は、
①健康経営の促進を表明、経営者自身が健康診断を受診
②従業員の健康を改善する担当者を設置
③健康管理に関する法令違反がないこと
④ストレスチェックの実施
⑤受動喫煙対策の実施
⑥長時間労働を抑制する取り組み
⑦健康増進や過重労働防止の具体的な目標設定
などを満たすこととされています。
認定された場合、補助金など具体的な特典があるわけではありませんが、求職者に対していわゆる「ブラック企業」とは対極的な「健康管理を重視している企業」という印象を与えることができるため、採用に優位に働くことが期待されます。
給与以外のインセンティブが見込め、従業員が健康で長期にわたって活躍できれば、結果的に企業コストも大幅に削減されることになるという筋書きです。
利益体質の前に健康体質
健康経営推進を宣言した協会けんぽに加入する中小企業は、3月に1万社を超え、前年同月比で5倍に達しています。中小企業診断士や社会保険労務士、保健師、管理栄養士等が取り組みをサポートする「健康経営アドバイザー」制度も始まり、「健康経営」を実践する環境も整ってきました。
具体的には、始業前のラジオ体操やストレッチは以前からよく見かける実践例ですが、「健康目標の設定と結果の報告」のような課題的な手法から立ちながら行う事務作業や睡眠セミナーの実施など、健康維持のためには多少の負荷も辞さないユニークなものまで、アイデアや工夫満載の活動が報告されています。
各社の共通点は、やはり、長く続けられる、習慣化できるような内容であることのようです。実際、何十年も前から取り組んでいる企業は、従業員の定着率も業績も一定の成果をあげており、「健康経営」が有効であることは実証されています。企業の長い繁栄を築くためには、確かに利益体質であることも重要ですが、その前に健康体質を作らなければ、それは成し得ないということになります。
自らの健康管理に充分配慮しつつ、今一度御社の「健康経営」について真剣に検討されてみてはいかがでしょうか?
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