№76-H29.10月号 「五方よし」

真の「経営」とは

長い間現場に携わっていますと、「経営」の手法も千差万別で、日々多くのことを学ばせていただく機会を得ています。景気が良い時には、比較的個々の方針とは関係なく、好業績になることもありますが、そうでないこそ、その真価が問われることになります特に小規模企業においいては、経営者の個性が強く、そのリーダーシップで業績をあげている会社も少なくありません

経営コンサルタントの一倉定氏も「いい会社とか悪い会社とかはない。あるのは、いい社長と悪い社長である」と述べている通り、社長の「考え方」次第で「経営」の成否が決まってしまいます

以前、稲盛和夫氏の成功方程式「「考え方」×「情熱」×「熱意」で、「考え方」だけはプラス100からマイナス100まである」という名言もお伝えしました。では、その「正しい考え方」はどのように醸成すればよいのでしょうか?

誰もが可能な方法は、『論語』や『菜根譚』など何千年も語り継がれている「良い行い」とされる本を繰り返し読んだり、100年以上続いている企業をお手本にするということでしょうそこには多くの「正しい考え方」の原理原則があります。決して簡単ではありませんが、自社のビジョンや理念を今一度見直し、何時も素直で謙虚な気持ちで目的に向かう姿勢が、「真の経営」に近付く第一歩といえます。

近江商人の考え方

近江商人の行動哲学の代表的な例として、有名な「三方よし」があります。「売り手の都合だけで商いをするのではなく、買い手が心の底から満足し、さらに商いを通じて地域社会の発展や福利の増進に貢献しなければならない。」という、商売人としての原則を端的に表現した言葉です。近江商人は地元を離れて商売をすることが多く、取引の中から自然にこのような思想が生まれ、継承されたと言われています。

少し前までは、「情報の非対称性」がもたらす売り手市場でしたが、今ではインターネットによる情報化が浸透し、圧倒的な買い手市場で物価がなかなか上がらないデフレ状態が続いています。「三方よし」の考え方であれば、三者のバランスが国内経済的にはとでも大切なのですが、IT化が進む限り今後なかなか売り手市場に戻ることは難しいでしょう。

以前、コピーライターの糸井重里氏が自社商品について「我々の作った物を分けて差し上げる」と雑誌の対談で触れていましたが、確かに中小企業であれば「良質」、「稀少」なモノ(またはサービス)を提供し続ければ、売り手有利も可能かもしれません。近江商人は他にも「利真於勤」や「隠徳善事」や「始末してきばる」といった素晴らしい考え方を残しています

「三方よし」プラス…

しかしながら、「真の経営」を目指すには、「三方よし」の中でも「世間よし」の部分をもう少し細分化する必要がありそうです

一つは、「社員よし」です。昨今、大企業も含め、「従業員第一」を掲げて成功している会社が多数あり、経営資源の中でも「ヒト」は最優先で、社員満足がお客様との良好な関係を築くと考えられます。

もう一つは、「協力者よし」です。自社に協力してくれるビジネスパートナーで、具体的に当社では税理士、司法書士、社労士、弁護士、金融機関といった専門家になります。経営という大きな仕事の中で、助けていただくことはもちろん、お客様を紹介していただくこともある分身のような存在です

戦略論的には、マイケル・ポーター氏が提唱する「5フォースモデル」で、「競合相手」、「代替品」、「新規参入業者」とともに「売り手」、「買い手」は脅威とされていますが、これは「脅威」になる前に「よし」を共有する意識を持てば上手くいくことでしょう結論として、「真の経営」実現には、「三方よし」+「社員よし」+「協力者よし」の「五方よし」の精神を携えて目的に邁進することが必要条件になるのではないかと考えます。今では数多くの経営者がこの「五方よし」の経営を実践し、好業績を収めています。

 

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