№79-H30.1月号 ざっくり、税制の動向
所得税
先月14日、与党より「平成30年度税制改正大綱」が発表されました。詳細につきましては、顧問税理士より説明を受ける機会があるかと思いますので、今号では今後の傾向をざっくりお話させていただきます。
まずは注目の所得税です。以前(平成27年度)の改正で、今年から扶養控除の上限が従来の103万円から150万円に変更があったことは既にご承知の通りですが、今回は多くの経営者様にとって若干マイナス材料になりそうな変更になっています。
まず、「給与所得控除の見直し」です。経営者様を含めた給与所得者は、所得税の計算上、収入から一定額の控除をうけており、その額は収入の増加に応じて、原則累進する形ですが、改正で収入850万円を超える場合に控除額が195万円で頭打ちとなります。その結果、例えば1,000万円の給与収入の人は年間約5万円の負担増となる見込みです。
次に、「基礎控除」が38万円から10万円引き上げられ、48万円となります(ただし、給与収入が2,595万円を超えると逓減します)。また、「公的年金控除」を一律10万円引き下げ、公的年金収入等が1,000万円超の場合に195.5万円の上限が設けられました。
以上が馴染み深い改正(平成32年施行予定)ですが、所得税は依然として「高額所得者の税負担が重くなる」傾向にあり、これは当分続くと考えられます。今回も当初自民党案は900万円でしたが、公明党の主張が通り、850万円に落ち着きました。高額所得者の定義は微妙ですが、最終的に600万円程度になる可能性もあるようです。一方で、個人事業者はやや恩恵を受ける変更となりました。
法人税
法人税の見通しは、大きな流れとして、近年世界各国からの引き下げ圧力が強まっており、我が国もそれに迎合せざるを得ない状況にあります。
米国では、トランプ政権の公約でもある連邦法人税の引き下げで、先月22日の税制改正法の成立に伴い35%から21%に一気に引き下げられることが決定しました。
日本としては、優良企業の米国への流出や国内への流入減を回避するためにも、ようやく実現した実効税率30%をさらに引き下げることを早急に検討することになるでしょう。
また、もう一つの重要テーマとして、「生産性の向上」があります。今回、中小企業税制では、際立った改正はありませんが、所得拡大や設備投資などにつきましては(若干制限ができましたが)引き続き税額控除等の優遇措置が設けられています。
資産税(相続税・贈与税)
今回注目すべきキーワードは、やはり、「事業承継」です。事業承継税制は既に10年程前の平成21年に成立したのですが、平成27年の改正を経て、やや使い勝手が向上したものの、利用者は年間500件未満に留まっていました。
その間も後継者不足は深刻で、企業全体の約7割が後継者が決まっておらず、経営者の平均年齢は高止まりしています。特に中小企業においては、それが顕著で、統計上「倒産」は減っていますが、「廃業」は増えています。
改正では、10年間の特例措置ではありますが、納税猶予の対象株式数の制限がなくなり、贈与税だけでなく、相続税においても全額が猶予されることになりました。
また、雇用確保の要件についても「相続時の8割維持」が一定の条件のもと緩和され、先代経営者や後継者の要件も従来の1人から複数人が可能となる等、利便性が大きく拡充しました。これに伴い、一般社団法人を設立して承継株価への課税を回避するようなスキームには、規制が入ること等も盛り込まれています。
その他、「小規模宅地等の特例」では、別居親族(家なき子)の適用要件や貸付事業用宅地の範囲に制限が加わり、やや恩恵を被りにくい状況になってしまいました。
以上、現状と今後の動向を踏まえ、平成30年度税制改正大綱をざっくり見て参りました。税制は、改正内容のみに注目するのではなく、その背景を知ることで、時代に則した社会貢献ができれば、自ずと会社に有利に働く仕組みになっています。
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