№78-H29.12月号 売上確保のための注目すべき三つの指標
前年(期)比
企業を存続させるための最も重要な要素は「売上高」です。商品、サービスは多種多様ですが、企業の稼ぐ力は「売上高」によって示されますし、各業界の販売シェアは「売上高」で決まります。その「売上高」を維持・増加させることが企業の目標であることは改めて言うまでもありません。
では、その目的を達成するために、財務ではどのような指標に注目すべきでしょうか?
今回は大きく三つの指標(比率)に注目してみます。最初は「前年(期)比」です。算式では「当年(期)÷前年(期)」で表され、増収とか減収といった表現で経営者であれば確実に意識している数字です。100%を下回っていれば、その要素は何であったかを詳細に検討する必要がありますし、下落率によっては、来年(期)の計画を大幅に見直さなければなりません。
マイケル・ポーター氏の「5フォースモデル」による競合分析やPOSを利用した「RFM分析」なども有効な手法ですし、今一度「SWOT分析」で自社を見直すことも良い機会でしょう。特に、前年(期)比割れは全社的な意欲を減退させかねませんので、言い訳の理由を探すのではなく、明確な分析と今年(期)の反省を来年(期)に生かす対策や工夫を凝らすことが重要です。
予実比
「予算を組む」ということは、企業において大変重要な業務です。何事も計画のないところに達成は成し得ません。算式では「実績÷予算」で、具体的に、人件費などの固定費をまかない、借入金の返済ができ、内部留保を蓄えるための「売上高」を実現する必要があります。
利益に細分化した固定費や変動費を積み上げて売上予算を決定するのですが、「CVS分析(損益分岐点分析)」などで、自社の損益分岐点がどの程度で、それにどの位の上積みが必要なのかを正確に把握して、精度の高い売上予算を作ることが大切です。
この予算に従って、少なくとも月次で「予実比」を検討し、目標予算に到達するよう調整します。その際、注意したいのが、過度の予算越えです。何らかの特需で、実績が予算を大幅に上回った場合、利益率が落ちたり、稼働率や労働時間等に無理が生じ、生産性に影響が生じてしまう可能性があるからです。
「売上高」は単に高ければ良いというものではなく、当初予算に近い額を達成できる水準が望ましいと言えます。まれに、予算計画を立てていない企業も見受けられますが、実績との比較で売上確保がより確実なものになりますので、是非実践して下さい。
構成比
最後は「構成比」(部分÷全体)です。部門が存在する企業では、部門÷全社でも構いません。収益構造を分析する際、バランスの良し悪しをチェックし、改善することが主な目的です。
中古車販売業であれば、自動車の販売もあれば、修理売上もあります。修理売上は一見、原価は部品代のみで粗利率は高そうですが、販売に比べて人手がかかります。また、不動産業では、土地の売買は在庫リスクを抱えますが、仲介手数料は機械的なイメージです。企業はこの構成比をどう決めるかで「売上高」の質が変わります。薄利多売であっても、額が大きければ、利益も残せますし、シェアの確保にもつながります。
そして、「構成比」は顧客(市場)のニーズを常に見極めながら決定するものです。例えば、居酒屋ではドリンクメニューにおけるビールの注文割合が一昔前に比べ大幅に減ってきていますし、中国人の「爆買い」は「コト消費」に変化してきています。
世の中の流れを敏感に感じ、構成比を柔軟に変えることが、この変化の激しい時代を生き残るための正しい在り方です。これら三つの指標を意識することで、売上を安定的に確保できる可能性は大いに高まることでしょう。
「率」と「額」をバランス良く理解し、実務に的確に応用できれば、経営の質は確実に向上します。
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