№89-H30.11月号 AI時代の生き残り策

知恵を絞る

IoT、自動運転、キャシュレス、ロボティクスなど、生産年齢人口減少による人手不足や世界的なIT化の潮流から、国内でも急速にAI推進の波が押し寄せている気配を実感しています。利便性の向上や時間短縮への期待と同時に、多くの職業で「仕事を失う」ことへの不安も抱いているのではないでしょうか?

以前(2016年6月号)、野村総合研究所が発表した「人工知能やロボットによる代替可能性が低い職業」を掲載しましたが、今回は「仕事におけるAI対策」という観点で、今から実践すべき行動をいくつか取り上げたいと思います。

まず、AI化で価値を失う代表例が「知識」です。数年前からスマホが普及し、手許で何でも調べることができるようになりました。弁護士もタブレット端末を持ち歩けば、記憶より正確ですし、AI化が普及すれば、案件ごとに判例に基づいたベストな提案を瞬時に導き出すことも可能です。このことは医師や他の専門職にも同様のことが言えます。

そこで、人間がAIに少し抵抗できるとすれば、「知恵を絞るということなのかもしれません。知恵は経験や努力から導き出されるアイデアや閃きのようなもので、現段階ではAIが苦手とする領域です

私はこの「知恵を絞る」というフレーズが大好きで、とても人間らしさを感じます。昔から「三人寄れば文殊の知恵」や「知恵は小出しにせよ」などのことわざや「知恵を借りる」、「知恵が回る」という独特の言い回しがあるように、時を経て培われてきた「生きるための極意」とでもいうべきスキルとも言えます「物事を真摯に一所懸命考え、衆知を集めて謙虚な気持ちで行動する」という日々の姿勢こそ、「知恵」を育むための大切な習慣ではないかと考えます

目利き力を養う

その次は、目利きでしょう。広辞苑には「①器物・刀剣・書画などの良否・真贋をみわけること。鑑定。また、その人。②人の才能・善悪などを見分けること。また、その人」と記されています。

新鮮で良質な食材(魚、肉、野菜など)の仕入れや、人事であれば、適正や能力の見極め、経営者であれば、未来に向けた経営判断など、これも経験や勘によるところが多分にあり、意識すべきスキルです最近では、金融機関が担保や保証に依存した融資から事業性評価への転換を図る中で、行員に「目利き力」の強化が求められています。

具体的には「定量評価」一辺倒の審査から「定性評価」を組み込んだ融資判断をするということで、目先の決算書だけでなく、事業展開や継続性(事業承継など)、SWOT、ビジョンなどを考慮する必要性が生じ、「目利き力」が重要なウェイトを占めるようになりました。

住宅ローンについては、既にAIによる自動の窓口融資が始まりましたが、審査項目が少なく、定型的な商品に関しての効率重視は止むを得ません。業界によって多少の差異はあるものの、良い商品やサービスにたくさん触れ、お客様の求めに応じた価値を提供し続けることができれば、「目利き力」は自ずと養われ、当分の間、AIによる代替を抑えることができそうです

ヒューマンタッチ

最後に、AIとの差別化で重要なのは、やはり、人間らしさという部分です。

慣れという面はあるかもしれませんが、医師に「辛くありませんか?」と尋ねられるのと、ロボットに尋ねられるのとはでは、受け取り方が違うはずです。そこには人間特有の「感情」があり、言葉の持つ温かみや愛情が安心感をもたらします。ここもAIが中々及びにくい部分です言葉遣いや立ち居振る舞い、約束を守る、思いやりの心などが相互の信頼を築き、人同士の良い関係を作ります人件費の高騰が企業にAI化を促進させることは、ある程度受け入れざるを得ないとしても、取って代わられないための生き残り策はしっかりと身につけておく必要があります

回ご紹介した3つのスキルは、決して一朝一夕にて成し得るものではありません

 

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