№95-R1.5月号 EC(電子商取引)の躍進と実店舗の工夫
商取引のパラダイムシフト
平成の時代が終わり、当月から新元号「令和」がスタートしました。平成の約30年間にはITが飛躍的に普及し、商慣行も大きく変化しました。中でも小売の形態はインターネット取引が身近なものとなり、今では人手不足も相まって運送業界にも影響を及ぼすほどの勢いです。超高齢化社会を目前にし、店舗まで足を運ぶことなく商品が直接オフィスや自宅に送り届けられれば、時間の節約にもなりますし、荷物を運ぶ手間や労力も省けますので消費者にとってはこの上ないメリットになります。
また、販売側にとっても人件費や在庫の保管といったコストを削減でき、24時間365日注文受付が可能なため、財務体質の改善にも大きな役割を果たしました。このようなネットを媒介とした取引を総称して「EC(電子商取引)」と言い、一般的には「Eコマース」と呼んでいます。気付いてみれば、食品から書籍、衣料、家電、雑貨に至るまで、生活の多くの部分を「Eコマース」に依拠している状態です。
近年では、通販ショッピングに限らず、オークションサイトや新聞(電子版)などのサービスやフリマアプリ等によるCtoC(Consumer to Consumer)取引まで「Eコマース」によって提供されています。ネットやスマホの普及という前提はあるものの、商取引という切り口では、平成の時代に起きた「パラダイムシフト」と言っても過言ではないでしょう。
国内のEC市場
経済産業省の発表では、2017年のBtoCのEC市場規模は16兆5,054億円で、2010年の7兆7,880億円と比べて倍増しています。そのうち、物販系が52.1%、サービス系が36,1%ですので、この両業態でほぼ9割を占める状態です。
一方で、EC化率は2017年で5.79%、2010年で2.84%とこちらも順調に伸びてはいるものの予想外に低い印象を受けます。市場全体では、やはりBtoBが317兆2,110憶円、EC化率も29.6%と市場拡大を牽引していますので、この規模と比べればBtoCはまだまだ小規模なのかもしれません。
話をBtoCに戻して、ネット通販での利用デバイスは、全年齢で33,1%がスマホ、63.3%がパソコンなのですが、20代ではスマホが50,4%でパソコンの44.5%を超えています。
この傾向から中長期的には利便性に比例してさらにEC化率は上がることでしょう。その他、EC化率が高い商品は1位:事務商品(37.4%)、2位:家電(30.2%)、3位:書籍(26.4%)、市場規模では、1位:衣類(1兆6,454億円)、2位:食品(1兆5,579億円)、3位:家電(1兆5,332億円)となっています。興味深いデータでは、よく使うモールが女性は楽天、男性はAmazonということです。
実店舗の抵抗と工夫
ECが進展に伴って、実店舗は衰退の一途を辿るしかないのでしょうか? 平成の時代の特徴的な繁盛ビジネスモデルであった家電量販店も一時の勢いは失いつつあります。
大規模な統合と大胆なリストラで生き残りを図り、今ではECも活用しながら住宅も手掛けている状態です。家電業界の実店舗はショールーミングの温床となり、アパレル業界もZOZOなどの新勢力が攻勢をかけ、しまむらや青山商事など減益社数が半数に達しています。
このような情勢の中、ネットへの様々な対抗策を打ち出し業績を伸ばす小売業も現れました。例えば、総合スーパーは生鮮食料品やプライベートブランドを充実させ、ドラッグストアは店頭で試用や説明の必要な化粧品や薬など実店舗特有の商品を強化することで消費需要を喚起しています。
また、実店舗の魅力を最大限に発揮し、ディスカウントや品揃えのワクワク感で来店客を楽しませるドン.キホーテも好調を維持している業態です。そして、コンビニエンスストアもその名の通り、利便性を追求して今なお店舗を増やし続けています。ECと実店舗というスタイルの違いこそあれ、消費者視点で環境に対応していく知恵や工夫が最も業績を左右する要因であることは「令和」の時代も変わることはないでしょう。
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