№123-R3.9月号 価値観と経営

「価値観」は変わる

企業は様々な「価値観」の人の集合体です日常的にも社内外で他者との「価値観」の違いを感じる場面は多々ありますが、経営者としてはどう対応すべきでしょうか?

「価値観」とは、一般的に「何に価値があると認めるかに関する考え方。価値(善・悪、好ましいこと・好ましくないこと、といった価値)を判断するときの根底となるものの見方。ものごとを評価・判断するときに基準とする、何にどういう価値がある(何には価値がない)、という判断」(『ウィキペディア』)と定義されます。

例えば、愛車も外車の高級セダンから燃費の良いエコカーやランクル、スポーツカーまで様々ですし、パートナーを選ぶ基準も収入・資産、容姿、性格、学歴といった具合に千差万別です。「価値観」の形成は家庭環境(親の考え方・行動)、学校教育、書物、所属団体に依る部分も大いにありますが、そこに個人的な経験が積み重なって独自に構築されるものと考えられています。年代や地域の影響も強いかもしれません。

性格と異なり、「価値観」は変わるケースも多く、事業に成功して金銭価値が変わることで消費が増える、災害で九死に一生を得た体験からボランティアや寄付に積極的になるなど、感動体験や環境次第で良い方向に導くことも可能です。

金銭の「価値観」と時間の「価値観」

「価値観」は複雑ですが、ここでは企業家にとって重要な金銭と時間に関する「価値観」について触れます。金銭に対する「価値観」は金銭感覚と言い換えることができるかもしれません。手持ちのお金をすぐに消費してしまう浪費家もいれば、貯金を趣味にしているような倹約家もいます。

企業活動において資金の確保は重要ですが、タイムリーな投資(人材・設備)が発展・成長につながることが多く、過度な倹約はゴーイング・コンサーンに支障をきたしかねない「価値観」です

例えば、毎期潤沢な利益が出ながら昇給や賞与が過少であれば労働生産性は下がり、高効率な機械の導入を躊躇すれば設備生産性は上がらないため、大きな機会損失を被ってしまう可能性が高くなります。貯蓄と投資のバランスを取ることは非常に難しいですが、優良企業の発展過程は成長期には出費を惜しまず、成熟期に入って余剰を形成するパターンが多いようです。

また、時間の「価値観」については、ロスの削減と効率化がテーマになります。「86,400円(60×60×24)を渡されて1日過ごす(ただし、余ったお金は翌日に持ち越せない)」という命題を与えられたら、1秒1円捨てることになりますので、無理にでもお金を使うことになるでしょう。

この感覚の差が時間に対する「価値観」の違いになります金銭との明確な違いは「時間は貯蓄できない」ということです

価値観マーケティング

価値観マーケティング」とは、ターゲットとする顧客がどのような「価値観」を抱いているかに注目した新しい販売促進手法です従来のマーケティングは、人の性別、年齢、職業、収入といった「デモグラフィック属性(人口統計学的属性)」から捉えるのが主流で、マスマーケティング時代のニーズ分析では一定の成果をあげてきました。

しかし、ネットやスマホの普及で膨大な情報が流通すると、ニーズは多様化しマーケティングも「どう売るか」より「なぜ買うか」という顧客心理に注目する手法にシフトし始めました。

顧客の複雑・多様な「価値観」を把握するのは至難の業ですが、日本人特有の「価値観」をモデル化・データベース化し、ターゲット消費者を12のタイプに分類してそれぞれのタイプに共通する「価値観」を据えることで価値観マーケティングの実現を支援するシステムも小売業の現場で採用されてきています。

AIによる個々の価値観分析が進む一方で、時代の変遷に影響されにくい「価値観」の共有として、以前取り上げた(Vol.119)「経営理念」を浸透させることも有効な手段です。存在意義という「価値観」こそ、企業風土や従業員の具体的な行動、顧客が受け取る商品やサービスのあり方を形成し、結果として企業の存続に影響を与え続けることになります

多様で変化する「価値観」を受容しつつ、企業としての確固たる「価値観」を共有できば、予期せぬ多くの危機も乗り越えられるはずです。

 

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