№140-R5.2月号 経営コンサルタントの心得
エンゲージメントの前提
今回は自戒の意を含め、経営コンサルタントとしてどのように行動すべきかについて改めて考えてみました。
先日、新規のご契約先に初めて訪問した際に、社長様から開口一番「具体的にどのようなことをしていただけるのですか?」とのご質問を受け、一時的に返答に躊躇したことがあったからです。
今さらながらこの仕事、一言で表現するのは中々難しく、例えば「御社の経営に関する助言をさせていただきます」とか「社長の経営判断のサポートをさせていただきます」などという字面通りのものではありません。おそらく、このように伝えたとしても、自社の経営について社長より理解している人物はいませんし、少し上から目線のような言い回しに気分を害され、「そういうことでしたら間に合ってます」という結論に至ることでしょう。
実際に自分がどのようにお話したかはさておき、このような会話があったとしても、契約が成立しないのであれば、個人的にはそれで良いと思っています。
言い方の問題は別として、経営は一個人の考えや判断だけで長年上手くいくような単純なものではないですし、聞く耳を持とうとしない経営者は残念ですが成功は見込めないからです。「経営の神様」と称された松下幸之助氏も「素直さ」や「衆知を集める」ことが経営者の資質として重要であることは著書や講演で繰り返し述べています。
経営の原理原則を学ぶ
経営コンサルタントとして関わるうえで重要なことの一つに「経営の原理原則」を学び、伝えることがあります。経営には原理原則がありますが、何故かこの部分に重点を置いているコンサルタントは少ない印象です。
具体的には、歴史に裏付けされた経営を成功に導くための考え方や行動指針になりますが、これを学ばずして経営もコンサルティングもあり得ません。習得するための最も効率的な手段は、長い間読み継がれている書籍、例えば、世間で成功していると考えられている経営者の著書を繰り返し読むことです。
前述の松下幸之助氏の著書であれば、『実践経営哲学』や『商売心得帖』、昨年他界した稲盛和夫氏であれば『考え方』、『働き方』など多数の名著があります。また、経営学者ではありますが、P・F・ドラッカーの『マネジメント』や『経営者の条件』を始めとした経営三部作なども秀逸です。
「経営の原理原則」を学ぶと、最終的には「人間として何が正しいか」という命題にたどり着きますが、名経営者も自身の体験はもちろん、『論語』や『菜根譚』、『大学』などの古典から正しい考え方や行動を実践していることがわかります。
最近の著書では、稲盛和夫氏の遺作となった『経営12カ条-経営者として貫くべきこと』が「経営の原理原則」を初歩から学べる一冊としてお勧めです。
会社の繁栄、その先に…
経営コンサルタントの業務は、一般的にマーケティングや財務分析、現場改善、経営計画書の策定、事業承継などと捉えられがちですが、個人的には時事の情報を的確に捉えてお伝えすることや経営者自身のプライベート・ファイナンスにまで踏み込んでアドバイスすることが不可欠であると考えます。
前者は例えば「日銀が長期金利の変動許容幅を0.5%に拡大することを決めた」という情報が出れば、本来の目的やどのような影響があるのかを、金利の海外での現状や動向、物価や為替などの関連情報まで結びつけるなど、報道より一段階深掘りしてお話することで、変化に対応する準備や計画の早期修正が可能です。
また、経営者(特に小規模企業者)の思惑として、会社の繁栄・成功の根底に個人の幸福があることを忘れてはなりません。最終的には経営者自身が財産を築きたい、良い人生を送りたいのが本音です。
昨今、「NISA」「確定拠出年金」「民事信託」「成年後見制度」「暗号資産」「不動産小口化商品」「リバースモゲージ」など人生100年時代を想定したキーワードが飛び交っています。
経営者自身の人生を豊かにするためのアドバイスまでをカバーすることが、経営コンサルタントとして長期的に良好な関係を築くための秘訣です。「経営者に寄り添い正しい決断のサポートをすることで、企業の発展に貢献する」ことが、今までもこれからも求められる役割であると確信します。
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