№174-R7.12月号 「企業規模格差時代の戦略と対応」

企業規模による格差構造の現状

2025年度の国の税収は、賃上げや好調な企業収益を背景に当初見込みより約2兆9千億円上振れし、約80兆7千億円となる見通しです。税収が80兆円を超えるのは初めてで、税収増に貢献しているのは、円安の恩恵を受ける大企業の輸出産業や好調なIT産業が中心だと感じています。

税収の7割は大企業、雇用の7割は中小企業が担っていると言われますが、「税収の7割を大企業が負担している」という部分には根拠となる明確なデータがなく、実際のところは不明です。ただし、「株高不況」を実感している中小企業経営者にとっては、感覚的には納得できる割合かもしれません。

従業者数については、2024年版『中小企業白書』の「産業別規模別従業者総数(2021年)」によれば、大企業1,438万人に対して中小企業3,309万人と掲載されており、「雇用の7割は中小企業が担っている」という指摘は概ね正しいと言えます担税力の高い大企業は当然稼ぐ力も強く、その差が最も顕著に表れるのが賃金格差です。

従業員100人未満の企業に勤める働き盛りの会社員(40~44歳・大卒)の平均年収は、従業員1,000人以上の大企業に勤める会社員の7割程度という統計データもあります中小企業は大企業と比べて経営資源に乏しく、労働生産性も低いため、付加価値を十分高められず賃金を引き上げられないという悪循環からなかなか抜け出せません。税収増の裏側で中小企業の倒産件数は増加しており、今年は12年ぶりに1万件を超える勢いです

形式的な救済策

今年は、製造業を中心に中小企業庁の取引調査員(下請Gメン)が訪問し、聞き取り調査を受けたという企業の話を多く耳にしました。光熱費や原材料費、人件費などが上昇しても販売単価の値上げに応じてもらえない場合や、発注単価が不合理かつ一方的に引き下げられる場合など、発注側による不当な取引行為への監視を強め、適正取引を促すことが目的とされています。

公正取引委員会も、下請法違反で勧告を受けた企業名と内容をホームページで公開しており、今年度は20件(昨年度21件)に上っています。しかし、実際には対応や是正が進みにくいのが現状です。調査は「秘密保持を前提としてお話を伺う」としていますが、下請側は正直に話した内容が漏れることを警戒し、すべてを伝えないケースが多い印象です

発注側に受注の大部分を依存する企業は、長年の取引慣行や立場の優劣、さらには孫請けの場合はその上位企業の事情などを考慮し、本音を語ることはほとんどありません仮に一時的に改善したとしても、中長期的には取引解消のリスクがあるため、調査が逆効果になる可能性さえあります交渉を行う際には、経営者自らが書面等で根拠を示しながら臨む方が無難と言えるでしょう。

規模格差への打開策

実際、このような厳しい状況下でも、大企業に劣らない賃金水準を実現している中小企業も存在します。例えば、競合が少ない領域でニッチトップを目指すことや発注者にとって不可欠な技術や製品を提供できれば、価格交渉も比較的円滑に進むでしょう。

人口減少、物価上昇(インフレ)、円安、金利上昇など、変化の兆しは至るところに表れていますこれらを単なる社会現象として放置すれば、自社への影響は避けられません。大企業も元は小規模企業からスタートしており、中小企業にしかできないことは多く存在します。

資本効率は低くても利益率の高い事業、製造業であれば多品種少量生産や受注生産による付加価値向上、サービス業であればオリジナリティの追求や伝統を現代風にアレンジして継承する取り組みなどが考えられます関連多角化を検討する余地もあるでしょう。大企業に過度に依存しているのであれば、当面の対応としては、魅力ある取引先であり続ける努力をするか、販売単価交渉を繰り返すかのいずれかになります。

報道では大企業の好業績に注目が集まりがちですが、規模の格差は埋まらなくても、賃金格差や待遇格差は工夫や企業努力の積み重ねによって大きく縮めることができると考えています。

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