№178-R8.4月号 実質の観点

実質賃金

2026年の春季労使交渉において、大手製造業を中心に6割超の企業が労働組合の賃上げ要求に満額回答し、今年も連合が目標とする「5%以上」の賃上げが相次いでいます。数字を見る限り、満額回答した大企業では、ベースアップ(ベア)で16,000円以上、率にして6%超の決定が多いようです。

円安を背景に企業業績が押し上げられ、賃金引き上げに積極的な姿勢を見せる大手製造業の勢いが続いています。一方で、1月に施行された中小企業に対する一方的な価格決定などの負担を是正する「中小受託取引適正化法(取適法)」の影響もあり、中小企業は逃げ場のない昇給圧力にさらされている状況です。

ここ数年の物価上昇により、中小企業には明らかに「賃上げ疲れ」が見られます。さらに足元では原油高の影響も懸念され、金利や社会保険料の増加も含め、雇用の維持・拡大に対する不安は高まるばかりです。

昨年は、お客様から賃上げに関する相談を頻繁にいただき、その際には、努力目標として「実質賃金」の考え方をご説明してきました。「実質賃金」とは、実際に受け取る給与の額面(名目賃金)から物価変動の影響を差し引いた、実際の購買力を示す指標です。

例えば、年間の物価上昇率が3%であれば、それ以上の率で賃金を引き上げる必要があります。物価上昇率の目安としては、「消費者物価指数(生鮮食品を除く)」(コアCPI)の年率を参考にするとよいでしょう

賃金面では「実質」を意識することで、昇給率は物価上昇率以上を目標とし、成果報酬や利益の還元は賞与の増額などで対応することで、従業員への説明にも説得力が増すと考えられます

実効金利(実質金利)

同様に、金利においても「実質」の考え方が重要です。融資を多く抱える企業は、金利上昇局面において大きな負担を感じています。直近の日銀の政策決定会合において、中東情勢の影響による企業物価の上昇リスクを警戒し、政策金利は据え置かれました。

しかし、市場金利(新発10年物国債利回り)は2.4%程度で推移しており、日本政策金融公庫の一般貸付金利も同水準まで上昇しています。長期融資では変動金利で契約している企業が多く、金利は一般的に「TIBOR+スプレッド」で決定され、近年はTIBORの変動により金利が頻繁に見直される状況です

金融機関は当然これらを把握していますが、経営者としても自社の金利上昇を抑制する観点から、「実質金利」の理解しておく必要があります。ここでは、預貯金を加味した実質的な金利である「実効金利」を「実質金利」として捉えます。

算式は以下の通りです。実効金利 =(年間支払利息-年間受取利息)÷(借入残高-平均預金残高 例えば、決算期末時点でA銀行に預金1億円(年利0.5%)と長期借入金5,000万円(年利2%)の残高がある場合、この算式に当てはめると、表面金利は2%ですが実効金利は1%となります。

実質GDP

日本のGDPについても、名目値で目にする機会が多いのではないでしょうか。新聞や報道では、ほとんどが実額である名目GDPとして発表されています。最新の2025年10~12月期の2次速報では、名目GDPは671.6兆円、実質GDPは591.9兆円です。

実質GDPは、名目GDPから物価変動(インフレ・デフレ)の影響を除いた指標であり、基準年の価格を用いて算出されます。そのため、純粋な生産量の増減(本質的な経済成長)を把握する際や、国際比較において重要な指標となります

しかしドルベースでこの実質GDPを比較すると、日本は30年以上ほとんど経済成長していません。主要先進国の中でこうした状況にあるのは日本だけであり、「失われた30年」と呼ばれる所以です

投資における「実質利回り」や、主に財務で使われる「純〇〇」など、他にも「実質」を重視する考え方はさまざまな場面で用いられています。表面的な数字だけでなく、その背景にある実質的な価値を見極めることこそが、これからの経営判断や意思決定においてますます重要になるはずです

 

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