№141-R5.3月号 見せかけの赤字

過大役員報酬

コロナ融資やその後の借換保証などで、以前にも増して決算書の内容を分析させていただく機会が増えています。コンサルタント視点は、あくまでも資金繰り重視であり、借入返済を含めて会社のお金が正常に循環するかです。

事業計画を提案する際には、資金の源泉は利益ですので、償却前利益(≒EBITDA)がどの程度確保できるかという部分が予測の精度に大きく関わるため、どのような支出が損金(経費)とされているかについても詳細に分析します

資金繰りの改善をご相談されるお客様は、決算書上赤字となっている割合が高いのですが、少なくない頻度で赤字の原因が売上総利益に対して役員報酬が過大に支給されているケースがある印象です私はこの現象を見せかけの赤字と呼んでいます。

説明するまでもありませんが、中小企業では、株主総会(取締役会)の決議を経て報酬の総額を変更できるため、実質、利益のコントロールが最もしやすい固定支出です。

経営者の一定数は、納税に対して前向きでなく、多少赤字にしておいた方が法人税等の負担がなくて良いという感覚が拭えないのと、節税貢献したい関与税理士も「役員報酬を減額して、利益を出しましょう」とは提案しにくいのかもしれません

このような場合は、単純に経営者の生活費を賄うことができる程度の役員報酬に減額することで比較的容易に黒字化を図ることができます資金繰りに困っている状況ですので、この提案に反発されることはないでしょう。

中古資産の償却、特別償却

次の「見せかけの赤字」は、減価償却費によるものです。例えば、半期が経過した時点で今期利益が見込まれるという時、中古の高級車を1,000万円で購入するようなケースがわかりやすいと思います。

車両の耐用年数が2年だとすると、当期は500万円の減価償却費を計上することが可能です。この償却費で2期は赤字が確保できそうですので、決算書だけの分析では判断が付きにくいこともあり、実際の会社の業績を見極める際には必ず「減価償却費の内訳書」を参考にするようにしています

他には、特別償却を実施して減価償却費を多めに計上することで赤字にするパターンです。製造業などでは、設備投資で大型の機械装置を導入する機会が多々あり、上記と同様、半期が経過した時点で例えば、中小企業投資促進税制の対象となるマシニングセンタ(耐用年数10年)を1,000万円で新品購入・事業供用した場合、減価償却費は350万円(普通償却50万円、特別償却300万円)となります。

また、この例で一定の手続きを経て中小企業経営強化税制を利用すれば、購入金額の1,000万円を即時償却することも可能です。

このように、中古資産の耐用年数や制度・特例を利用して償却可能額を増やすことで、決算書上赤字を作ることができます

倒産防止共済

最後はお馴染みの倒産防止共済です。この掛金は全額損金計上が可能なことで人気があり、よく利用されます。経理処理については、「保険積立金」などの勘定科目で、貸借対照表の投資等へ計上することが望ましいのですが、敢えて損金計上することで「見せかけの赤字」を作ることも可能です

総額800万円、年間240万円を限度として掛けることができますが、決算月で年払いに切り替えることで、期首から掛金を支払った場合、年間460万円を一挙に損金にできるという裏技もありますこの方法で計画的に共済金を積み立てれば、その期の赤字に大きく貢献できそうです。

財務分析では、これらの「見せかけの赤字」に惑わされず、キャッシュフローを賄うことができる利益を捻出できているかを正しく見極めなければなりません

今回紹介した手法はすべて合法的なものですが、中には在庫の圧縮や期末の売掛金を過少計上するなどの非合法な赤字を作るケースも耳にします。成長の過程で、金融機関や税務署に不要な疑念を抱かれないよう注意も必要です。

決算書の数字には会社の経営姿勢が表れます。節税を追求し、「見せかけの赤字」が常態化すると、正常な姿からは徐々にかけ離れてしまうことになるでしょう。

 

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