№181-R8.8月号 インフレスパイラル

消費減税と国民の肌感覚

政府は今月5日、飲食料品の消費税率を2027年4月から2年間限定で現行の8%から1%に引き下げる基本方針を臨時閣議で決定しました。高市首相は今秋の臨時国会に関連法案を提出し成立を目指す方針です。果たして長引く物価上昇から家計の負担を軽減し、国民の購買力を下支えすることができるでしょうか。

実際にどの程度の割安感が得られるのかは、来年4月になってみなければ分かりません。材料費や人件費の高騰が続けば、事業者は従来通り価格転嫁を強いられるため、期待通りの効果が得られにくいのではないかと予想します。

例えば、税込みで1,080円の食料品は、減税で1,010円になりますが、約50円(税抜)の値上げで1,061円になるイメージです。もちろん、減税がない場合、1,134円になることを考えれば、家計への影響は大きいのですが、実感としては、「価格が少しの間据え置かれた」くらいの印象でしょう。

また、経済状況次第で減税継続を判断する「景気条項」を盛り込まないことも発表されていますので、2年後には確実に税率が8%に戻ります。減税開始時には値下げの実感が乏しい一方、減税終了時までインフレ傾向が続けば、負担感が一層大きくなるため、受け皿となる「給付付き税額控除」の行方にも注目したいところです。

減税が招く負の影響

消費税が減税されると、単純に税収(財源)が減ることになります。国の財源が減ると、通常は赤字国債を発行して賄うことになるため、世界は日本の財政に関してネガティブとなり、日本円が売られ、通貨が円安に誘導されます。同時に、世界の日本に対する不安視は、長期国債の金利上昇を招く要因にもなります。

実際に、長期金利の指標となる「新発10年物国債の利回り」は、上昇傾向にあり、現在2.8%程度です。さらなる円安は、輸入物価の高騰につながることで国内の物価上昇に影響します。物価上昇に昇給が追い付かなければ、実質賃金が低下するため、政府は「物価高対策」に乗り出し、赤字国債を発行するという抜け出せないスパイラルに組み込まれてしまいます。

厄介なのは、物価高と金利高に悩まされることです。具体的には、短期では、日々の消費生活、長期では、住宅ローン等の支払いに影響することになります。金利のない世界が当たり前で、デフレ慣れした日本国民には耐えがたい状況です。ポイントは「赤字国債の発行」ですが、最近では金利の上昇を背景に、個人向け国債の消化推進策として、保有者が死亡した際の相続税を軽減・非課税にする案やNISA対象にする案が浮上しています。

インフレの改善

コロナ禍以前には「デフレスパイラル」という言葉をよく耳にしました。日本経済は長期間にわたってデフレ傾向にあり、特に2012年12月に第2次安倍政権が発足して以降は、日本銀行との政策協調のもと、大規模な金融緩和によって2%の物価安定目標の実現を目指してきました。

近年は、持続的に物価が上昇するインフレ傾向にありますが、「インフレスパイラル」という言葉は、あまり聞かない気がします。「インフレスパイラル」は決して、負のスパイラルだけを指すわけではありません。国内の景気が良くなり、「物価が上がり、賃金が増えて購買力が上がる」が繰り返されることで経済成長が進めば、国全体が豊かになるため、むしろ望ましい循環です。日本の高度成長期がこれに当たります。

今の円安は、輸入物価が上がり、海外に利益が流れてしまう「コストプッシュ型の悪いインフレ」です。最近では、政策対応だけで為替を望ましい水準に維持することが容易でないことも見えてきました。「通貨は国力」だと考えますので、根本的には、日本の将来性に期待が持てれば、自ずと為替は円高に戻り、「良いインフレ」になるはずです。

宇宙産業やAIなどの成長分野では、米国などの海外企業が先行している印象は否めません。しかし、日本には高度な製造技術や独自のノウハウを持つ中小企業が数多く存在します。かつて日本経済の成長を支えた中小企業が、新しい技術や事業を生み出し、再び日本経済を活性化させる原動力となることを期待したいところです。

 

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